もう施設には帰らない【第一博愛】
6月○日 無断で施設を飛び出し、翌朝、母親の住んでいる自宅へ帰ったところを無事保護された利用者Tさん。
無外させてしまったことは猛省し、二度と起こらないようにしなければなりませんが、Tさんの行動が私たちや社会に突きつけているものとは?
様々な思いから手に取ってみた本は、発刊から約20年もの歳月が経っていた。
福祉先進国に遅れながらも、施設入所者の地域移行を図るため、グループホーム設立が盛んに叫ばれ始めた時期と重なる。
業界では当時、ノーマライゼーション実現の阻害要因であるとする考えから「知的障害者更生施設(現在の障がい者支援施設)解体論」が吹き荒れていた。
当施設で働いていた私としては「入所施設=必要悪」と捉えられたことに対し、かなりの嫌悪感や反発を抱いたのを覚えている。(法整備も不十分で、環境も整っていない中での極端な舵切りはさておき、もちろん共感できる部分も多くあった)
机上の論理はともかく、親兄弟や本人のより近くでサポートされている人たちの声(ニーズ)と「入所施設不要論」との大きな乖離を肌で感じていたことも、違和感を覚えた原因の一つだろう。
いずれにせよ、施設入所に至るまで本人の意思が置き去りにされていることは事実で、もちろん本人を取り巻く環境によっては今でも多く見られ、そのことをセンチメンタリズムだけで「絶対すべきではない」と声高に言うつもりはないが…
通所施設在職時に、一度読み返したことはあるが、あの頃とは違う現在の自分に、何を問いかけてくるのだろう?
Tさんの気持ちに少しでも寄り添いながら、もう一度読んでみようと思う。
様々な理由で家族と一緒に暮らすことが叶わず、自分が望んで入ったわけではないであろう当施設で過ごされている方々(Tさんは30年以上)に対し、私たち(入所施設)のやるべきこと・進むべき道は、Tさんの取った行動や利用者さんたちの声にならない言葉や表情の中にきっとある。